研究内容

中分子共有結合薬(bioTCI)の取得

薬をなるべく(すく)なくすることを目的として研究しています。少量で長く聞く新たな薬剤形態(モダリティー)として、 「分子標的薬を志向した人口中分子」を創成しており、その中でも特に「中分子共有結合薬(bioTCI)」の取得に注力しています。
例えば、ガン細胞などの疾患分子に結合するbioTCI を取得すれば、1 回の投与で持続的な疾患治療につながります。

★ 中・高分子型の共有結合薬(bioTCI)についての総説

アスピリン(バファリン)に代表される共有結合薬(Targeted Covalent Inhibitor; TCI)は、120年以上の長い歴史を持ち、そのほとんどが低分子です。私たちは、低分子TCIよりも分子標的性の高い、中・高分子型の共有結合薬(bioTCI)に着目し、その中でも特に作製が容易な「中分子bioTCI」(midTCI)に特化した研究開発を行ってきました。具体的には:
@ ペプチド型TCIのコンビナトリアルスクリーニング
A DNAアプタマーのTCI化
を、世界に先駆けて報告してきました。これらを含めた、bioTCIの歴史的背景および最新の動向を、総説として発表いたします。なお、コンビナトリアルスクリーニングとは、多数(10^9種類)の候補化合物の中から分子標的性TCIを選び出す方法であり、DNAアプタマーとは、分子標的性を持つDNAのことです。

bioTCIs: Middle-to-Macro Biomolecular Targeted Covalent Inhibitors Possessing Both Semi-Permanent Drug Action and Stringent Target Specificity as Potential Antibody Replacements
by Jay Yang, Yudai Tabuchi, Riku Katsuki, and Masumi Taki
Int. J. Mol. Sci. 2023, 24(4), 3525; https://www.mdpi.com/1422-0067/24/4/3525
In Topical Collection "State-of-the-Art Molecular Immunology in Japan"
オープンアクセスなので、どなたにもお読みいただけます。

★ 最近の研究成果

1.スッポン型中分子薬剤(中分子コバレントドラッグ)

副作用なく不可逆(永続)的に疾患関連白質のみを阻害する薬剤の探索システムを確立することで、薬剤投与を最小回数で済ませること(患者のQOL向上)を目的として、標的蛋白質だけに不可逆的に共有結合する中分子型共有結合性薬剤(middle-molecule covalent drug;ラボ内スラングで「スッポン型中分子」)の開発研究を行っています。

★スッポン型開発の歴史:
スッポン型は、アスピリンに始まり100年以上の長い歴史を持つ薬剤概念ですが、我々が「中分子コバレントドラッグ」の可能性を信じて実験を開始した2013年頃は、中分子はおろか低分子においてもコバレントドラッグの新規報告例は滅多にありませんでした。不可逆的に共有結合する生理活性物質は、薬(drug)というより毒(toxicophore)のイメージが強く、科学的根拠よりも「何となく怖いもの」という漠然とした理由で敬遠され続けていたのではないかと推測しています。我々は、もしも本当に標的以外への不可逆的結合(副作用)が問題となるのであれば、分子標的性を多点認識で極限まで高めればよいのではないかと考え、低分子ではなく中分子biologicsを薬剤モダリティーとして選び、これに注力してきました。

1-1. DNA型

世界初の概念である、DNA型共有結合性薬剤(DNA covalent drug)を提唱しました。

Tabuchi et al., Chem. Commun., 57, 2483-2486 (2021); doi: 10.1039/d0cc08109d.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33625415/

水中で、標的の蛋白質に共有結合で強く喰いついて二度と離れませんが、相補鎖を加えると任意のタイミングで「共有結合させたまま解毒」できるところもミソです。市販の化合物から1段階の教科書反応(SN2反応)で誰でも作れるFig 2aの新規化合物1がポイントであり、電気泳動とかLC-MSとか、学部でならっている古典的基礎実験だけで成り立っているシンプルな系が特徴の論文です。今から30年前でも十分実施・完結できる内容なのですが、ずっと見逃されてきたことの中に、全くの新しさが隠れていることを田淵君が見逃さずに発見しました。世の中も学術も複雑化しすぎていますが、基本とか基礎ってすごく大事だと、改めて思います。

1-2. ペプチド型

ライブラリーペプチドからの共有結合性薬剤の直接的取得

Y. Tabuchi, T. Watanabe, R. Katsuki, Y. Ito, and M. Taki*, Direct screening of a target-specific covalent binder: stringent regulation of warhead reactivity in a matchmaking environment, Chem. Commun., 57, 5378-5381 (2021), selected as a hot/cover article; https://doi.org/10.1039/D1CC01773J

ライブラリーペプチドからの共有結合性薬剤の間接的取得

S. Uematsu et al., Combinatorially Screened Peptide as Targeted Covalent Binder: Alteration of Bait-Conjugated Peptide to Reactive Modifier, Bioconjugate Chemistry, 29, 1866-1871 (2018).
Open repository :
https://uec.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&
item_id=8864&item_no=1&page_id=13&block_id=21

派生研究:蛋白質結合性ペプチドを光架橋させることで、蛋白質のどのサイトに結合したかがMS/MSで分かる、という内容です。
K. Yatabe et al., A Cysteine-reactive small photo-crosslinker possessing caged-fluorescence property: binding-site determination of a combinatorially-selected peptide by fluorescence imaging / tandem mass spectrometry, International Journal of Molecular Sciences, 19, 3682 (2018).
Open access:https://www.mdpi.com/1422-0067/19/11/3682

2.超分子性コアの分子進化

人工分子コアにアザクラウンエーテル誘導体を持たせたライブラリーを10BASEd-T法(後述)にて作製し、 これを用いてバイオパニングを行うことで、ガン関連蛋白質(Hsp90;後述)に結合する「クリプタンド」(人工かご状の多座配位子)の取得に成功しました。 クリプタンドのような超分子性リガンドを、金属抽出などの従来用途ではなく、 生体分子と特異的に強く結合させてこれを阻害させたのは本研究が初めてです。

K. Mochizuki, L. Matsukura, Y. Ito, N. Miyashita*, M. Taki*, Medium-firm drug-candidate library of cryptand-like structures on T7 phage: Design and selection of strong binder for Hsp90, Org. Biomol. Chem., in press (2020).

なお、この論文はOrg. Biomol. Chem.誌(2021.1月号)のcover articleに選ばれました。

修飾ペプチド、あるいは架橋ペプチドを作るという発想ではなく、 人工コアの存在を際立たせつつ、 これと周辺ペプチドとを共進化させることで標的特異性などを補うというスタンスで、 今後も様々な薬剤形態(モダリティー)を探索していきたいです。

中分子biologics薬剤の体内安定性の向上:NEXT-A反応によるbiologics-Fc結合体作製

中分子biologics(例:ペプチド型または核酸型医薬品など)は、標的特異性が高い反面、生体内に入れた時に数時間以内で直ぐになくなってしまうことが玉にキズです。これらbiologicsと、「ヒト型抗体のFc領域」と呼ばれる分子量約7万の糖タンパク質とを結合することで、この問題が解決できると言われていましたが、Fcがあまりにも複雑な構造をしている高分子であるため、これらを効率良く1:1で結合させることは困難でした。我々は味の素鰍ニの共同研究で、前述したNEXT-A反応を応用して、FcのN末端と様々なbiologicsとをほぼ100%の変換効率で副反応なく共有結合できることを発見しました。
biologics-Fcの1:1結合体をネズミに投与した動物試験の結果、biologicsの生体内での薬理活性がきちんと保たれていることはもとより、3日たっても安定に体内に存在することも確認しております。抗体医薬品代替物としての期待が高まっている中分子biologicsは、今後も国内外で薬剤効果を持つものが次々と発見されると思われますが、本技術を用いることで、それらをヒトの体内においても安定に保つ形態に変換しつつ、薬剤の投与量を減らすことに貢献できるのでは?と考えています。
本研究成果はBioconjugate Chemistry誌(アメリカ化学会)に総合論文として採択されました。

Hirasawa S* (味の素, 兼, 瀧研D3), Kitahara Y, Okamatsu Y, Fujii T, Nakayama A, Ueno S, Ijichi C, Futaki F, Nakata K, and Taki M*, Facile and Efficient Chemoenzymatic Semi-Synthesis of Fc-Fusion Compounds for Half-Life Extension of Pharmaceutical Components, Bioconj. Chem., 30, 2323-2331 (2019); doi: 10.1021/acs.bioconjchem.9b00235.
この論文は:
1) Bioconjugate Chemistry誌(2019年9月号)のfront cover articleに選ばれました。
2) 共同通信(ほか)にてメディア報道がなされました。https://kyodonewsprwire.jp/release/201905276808
3) 本学量子科学研究センターHP http://www.ias.uec.ac.jp/ および、本学オンライン雑誌UEC e-Bulletin http://www.ru.uec.ac.jp/e-bulletin/research-highlights/2019/convenient-synthesis-of-biopharmaceutic-fc-conjugates.html にて取りあげていただきました。
(上記掲載に当たり、Sandhu先生や清水様らには大変お世話になりました;この場を借りて御礼申し上げます。)

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張力に応じて蛍光色の変わるヒドロゲル(生体向け複合材料)

「伸縮で蛍光色の変わる生体適応ゲル」を自前で基礎開発しました。慶応大の山下先生や、ETHチューリッヒ校(スイス)のVogel先生との共同研究です。細胞の張力を蛍光顕微鏡等でイメージングすることを目的として、研究を行っています。細胞や臓器にかかる力と生物学的現象との関係を見つけるための基礎研究ツールとして、今回の材料などを役立てたいです。指圧とかロミロミとか、局所圧迫からくる癌化とか、肩こりとか、今の科学で分からないことが分かったり、将来的には薬による治療を力による治療に置き換えられると良いな、と思っています。

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